抄録 | クロショウジョウバエの細胞質リンゴ酸脱水素酵素の2つのアロザイム(MDH^f, MDH^s) 及び細胞質のαグリセロリン酸脱水素酵素の3つのアロザイム(αGPDH^f, αGPDH^m, αGPDH^s) を精製し, その生化学的性質を比較した。リンゴ酸脱水素酵素では, 至適pH, オキザロ酢酸に対するKm値に違いがみられたが, 温度抵抗性, リンゴ酸及び助酵素に対するKm値には差がみとめられなかった。αグリセリロン酸脱水素酵素では, 温度抵抗性に3者の間でいちぢるしい差異があり, 基質及び助酵素に対するKm値, 至適pHにはいちぢるしい違いがみとめられなかった。リンゴ酸脱水素酵素のアロザイム系統を糖を除いた培地で25℃で飼育すると, オキザロ酢酸に対する親和力の強いMDH^fをもつ系統は通常培地に比べて差はないが, その親和力の弱いMDH^sを持つ系統は生体内基質量が低下する20日以後から生存率が減少する。αグリセロリン酸脱水素酵素のアロザイム系統のハエを35℃で飼育すると, αGPDH^f系統の死亡率はαGPDH^m系統のそれに比べて高く, αGPDH^sの死亡率は2系統の中間であり, 精製酵素の温度抵抗性の結果と一致した。これらの結果から, クロショウジョウバエの糖代謝系に属する2つの酵素のアロザイム間で生化学的性質の違いがあり, ある条件下で, この差異が生物の生存の差に結びつくことが示唆された。 |