抄録 | 西洋の『源氏物語』研究においては,日本でかつ世界で最初の小説『源氏物語』には,なぜ795の歌があることかということを問題にしている。その問いに対し,西洋文学と日本文学とでは,「詩」というものに基本的な違いがある,すなわち,西洋の詩は叙事詩(エピック)から発展し,ナレーションの要素が大事であるのに対し,日本の詩は感情を表現することがナレーションよりも重要であると論じられている。日本の詩は特に短い。俳句及び短歌は,わずか一,二文である。したがって,ストーリーを語ることは出来ない。しかし,『源氏物語』には,そのような詩が795ある。この数は,現代の読者から見ると,驚くほど多い。そのため,「この多くの詩は物語の中でどのような役割を果たすのか」ということを西洋の研究者達は長い間論争してきた。本稿は西洋でなされた,様々な『源氏物語』研究を分析する。さらに,西洋の文学理論を用いて,次の点を考察する。『源氏物語』における「叙事詩の美学」がどのように表現されているか。その叙事詩が物語上どのような役割を持つのか。そして,日本文学の素晴らしさが,西洋の研究者達によって,理解され,その真価を認められることは可能であるか。以上の点について,比較文学の視点から探りたい。 |