抄録 | ポリアミン欠乏状態にしたHTC細胞にスペルミジンを投与すると,スペルミジンの過剰蓄積に伴う細胞死がおこることを明らかにした.このときおこる細胞死は形態的にはアポト-シスに類似しており,細胞容積の縮小,核の凝縮,細胞表面の平滑化などを伴うが,DNAの断片化は検出されず,電子顕微鏡で調べるとミトコンドリアの損傷も観察された.なぜ細胞死に至るまでスペルミジンが蓄積するのか,その機構を調べた.その結果,ポリアミン欠乏細胞は調製する際に行う,オルニチン脱炭酸酵素(ODC)阻害剤(本研究では1-アミノオキシ-3-アミノプロパン)による処理日数を延長すると,スペルミジン取り込み系の抑制が起こり難くなるために蓄積することがわかった.その際,ODC阻害剤の処理日数の延長は,細胞内のたん白合活性を低下させるので,取り込み系の抑制に関与するたん白の新たな合成が起こり難くなることが原因であると思われた. ポリアミンを細胞内に過剰に蓄積させる方法論の開発をめざして,導入試薬の開発を試みた.昨年度合成したポリアミンのジアセチル体および本年度合成したモノアセチル体を用いて,ラット肝臓から部分精製したポリアミン酸化酵素(PAO)に対する基質性を調べ,PAOの活性部位構造を推察した.PAOによりスペルミジンおよびノルスペルミジンを生成するアセチル体を選びポリアミン欠乏HTC細胞に投与したところ,ジアセチル体は効率よく取り込まれたのちポリアミンに変換され,スペルミジンおよびノルスペルミジンを生成することがわかった.しかし,これらジアセチル体では過剰蓄積は実現できなかったことから,ポリアミンの取り込み系を利用しないプロドラッグの設計が必要であると思われた. |