抄録 | 1.ラットスペルミジン合成酵素の一次構造:DNA配列の解析で得られたマウスおよびヒト由来スペルミジン合成酵素のアミノ酸配列を参考にして,エドマン法では配列が決められない微量酵素試料を用いて,如何にして全配列に関する情報を得るかという方法論上の興味を含めて検討を行った.方法としては,限定分解,セミミクロHPLCによる生成ペプチドの分離,MALDI-TOF-MSによる分離ペプチドの質量測定からなっている.限定分解法としては,リジルエンドペプチダ-ゼとアルギニルエンドペプチダ-ゼを用いる酵素法,およびシステイン残基のN端側を選択的に切断する化学的方法を採用した.少なくとも3種の限定加水分解法の組合せは,DNAに基づくアミノ酸配列の妥当性を支持するために不可欠であった.検討の結果,ラットスペルミジン合成酵素のN末端はアセチル化されており,11番目のアミノ酸はマウスのDNA配列からのセリンではなく,ヒトのDNA配列からのプロリンであり,その他はマウスのアミノ酸配列と基本的に一致していることがわかった.2.活性部位に位置すると思われる遊離SH基の検索:基質である脱炭酸化S-アデノシルメチオニン(deAdoMet)の存在下あるいは非存在下で,市販のSH-試薬IAEDANSと酵素とを反応させると,deAdoMet非存在下で酵素が蛍光標識されることがわかり,deAdoMetの結合部位近辺に活性を現すために必要なSH基が存在すると思われた.IAEDANS標識酵素を限定加水分解して標識されたシステインを同定したところ,4?6個のシステインが標識されており,活性部位に複数のシステインの存在が想定された.3.タンパク質における遊離SH基周辺アミノ酸配列の空間的位置関係を調べるための基礎検討:X線回折やNMRを適用できない微量SHタンパク質を対象として,SH基と反応する官能基と光標識化が可能な官能基の両者を有する二機能性試薬AIABを合成し,その有用性を試す基礎検討を行った. |